心理と行動

中学のとき、ませた友人に薦められて、三島由紀夫の「美徳のよろめき」を読みました。今思えば、その友人は、文学的にませていたというよりは、性的にませていたのだろうと思うのですが、ときどき本の貸し借りをしていた私に、「とても面白いから読め」と、文庫本を貸してくれたのです。

当時の私は、太宰治を少し読んでいたものの(だからこそ?)、三島の本など手に取ったこともなく、また、性的には完全に奥手でした。そんな私にとって、いわゆる「不倫小説」である「美徳のよろめき」が面白いはずはありません。結局その友人も、「美徳のよろめき」のどこが面白いのかは教えてくれませんでした。

大人になって「美徳のよろめき」を読み返してみると、印象はまったく違っていました。中学のときより面白かったのは言うまでもありませんが、何よりも感心したのは、その人工的で精緻な心理描写でした。「美徳のよろめき」は、単純な「行動」を複雑な「心理」で裏付けていきます。凡人にはかなり共感しがたい心理を、論理的な筆致でねじ伏せていくような印象もあります。それがいちいち面白いのです。

「心理」というのは、「行動」を説明する理屈の一種と言っていいと思います。小説に限らず日常でも、「心理」は事後的に見いだされることが多いような気がします。ですからシナリオを書くときも、まず人物の「行動」を考え、後から「心理」を考えるようにしています。ときには登場人物の「心理」が、作者である自分にも分からなくなることもあるのですが…(笑)