何も失われていない

最近「失われた20年」という言葉をよく聞きますが、とても詐欺的な言葉だと思います。日本がこの20年、経済的に発展することができなかった、ということを言いたいのだと思うのですが、それをいかにも80年代以前がバラ色だったかのような言い方で表現するのはいかがなものでしょうか。

80年代が終わるとき、「80年代は何もなかった」という言葉をよく目にしました。80年代以前に青春時代を過ごした世代が、80年代の政治・文化を振り返ってそう表現したわけです。もちろん本当に「何もなかった」わけはないので、「80年代には重要な出来事は何もなかった」というような意味なのでしょう。

「失われた20年」にしても「80年代は何もなかった」にしても、「今の若者は昔に比べて根性がない」と同じく、ある種のスローガンでしかないと思います。一面では事実を述べているのかもしれませんが、全体としては特定の個人や世代の印象を披露しているにすぎず、信じなければ無害ですが、信じてしまうと、個人の「考え方」にかなり影響を及ぼします。

選挙が近くなって、「元気を取り戻す」とか「もう一度1番に」とかいう言葉をよく聞くようになりましたが、その人たちが言う「元気だった頃」「1番だった頃」って、本当にいい時代だったのでしょうか。私は一応当時を知る年齢ですが、まったくそうは思いません。当時を知らない若者なら、なおさら「?」なのではないでしょうか。