タバコをやめて7年くらいになる。やめてすぐの頃は、時間を持て余したときに吸いたくなることがしばしばあった。最近はその「手持ち無沙汰→タバコ」という条件反射の回路も完全に消え失せ、吸いたいと思うこともなくなった。
そのかわり、時間を持て余していると感じたり、手持ち無沙汰だと思うことが、日常からなくなってしまった。集中したり緊張したりしている時間と、ぼんやりしたりリラックスしている時間との明確な区別が、生活の中から消えてしまった。
これはタバコをやめたことが原因というより、老化が原因なのかもしれない。タバコをやめたのも、なんとなくタバコをまずく感じるようになったことがきっかけであるワケだから、タバコをやめたことと、生活に「メリハリ」がなくなったこととは、どちらも老化の結果に過ぎないのかもしれない。
「タバコを1本吸うのに×分かかるとすると、喫煙者は一生で××時間を無駄に過ごしている」
昔そんな下らない計算を目にしたことがあるが、タバコでうまく生活のリズムを作っている喫煙者もいるのだ。生活には「間」が必要だ。タバコをやめた私は、未だにそれに代わるモノを見つけられない。
ところで、戯曲のト書きには、たまに「間」というのが出てくる。二十代のある時期、芝居好きというワケでもないのに戯曲をよく読んでいた私は、コンテストに応募した映画シナリオのト書きにあえて「間」というのを入れた。それを読んだシナリオ作家は「映画のシナリオには“間”なんて書かねえんだよ」と私に言った。それ以来、映画のシナリオに「間」というト書きを使ったことはない。