知らない女

黄昏時、道路を挟んだ反対側の歩道をこちらにやって来る知人を見つけ、会釈した。しかし、どうもそれは人違いだったらしい。数日後にまた彼女を見かけたが、その日とはまったく違う髪型をしていた。よくよく思い出してみると、彼女が髪を伸ばしていたのは十数年前のことで、最近はいつ見てもさっぱりしたショートカットだった。年に数回しか会わない人だから、私が知らないうちに髪を伸ばし、この数日でバッサリ切った可能性もあるが、彼女の性格からしてまずそれはあり得ない。彼女に直接「こないだすれ違ったよね」と聞けば済む話だが、十数年前ならともかく、ここ数年は挨拶を交わすだけの間柄だから、なんだかそういう会話すら億劫だ。それにしても、あの日すれ違ったのは彼女だとしか思えない。暗くて顔がはっきり見えなかったのは確かだが、シルエットや身のこなしは彼女のものだった。彼女は自転車に乗っていた。自転車が急にブレーキをかけたから、私は考え事を中断して顔を上げたのだ。私が大きく会釈すると、彼女も自転車の上で頭を下げた。そしてすぐに言葉もなく行き過ぎた。彼女がブレーキをかけたのは偶然だったのかもしれない。それを私が勘違いし、その上人違いしたのかもしれない。彼女も私がよく見えなかったから、とりあえず頭を下げたのかもしれない。おそらくそんなところだろう。それにしても、あの日すれ違った女は、十数年前の彼女にそっくりだった。