味の野蛮人

仕事が終わって、夕飯を食べようと一人で居酒屋に入った。安さが売りのチェーン店。

一人ではめったにそういうところ、居酒屋やバーなど酒を飲む場所には行かないのだが、本日の仕事場の近くで安く夕飯が食べられそうなところはその居酒屋しかなかった。入る前に二三度店の前を行ったり来たりして中をうかがい、一人で呑むスペースがあることをはっきり確認してから店に入った。

生中1杯飲んで、串数本に焼きそばなど三品頼んで千円ちょっとだった。確かに安い。不味くもなかった。

ところで私は大学のとき、バカ舌の持ち主という意味で「味の野蛮人」と呼ばれていた。フライにソースを、スパゲティにタバスコを、牛丼に紅ショウガを、尋常ではない量かけて食べるからだ。しかし言い訳すると、学食やチェーン店で食べるそれらがあまりに不味かったから、味をごまかすためにそうしていたのだ。私を「味の野蛮人」と呼んだ映画研究会の奴らはその言い訳を鼻で笑ったが、私はかなり本気でそう思っていた。

昔は安いものは不味かったが、今は安いからといって不味いとは限らない。私の舌には、今日入った安居酒屋の味で十分だった。デフレ云々と難しいことを考えはじめると、その味も微妙に変化するが…。