謝る先生

高校のとき、謝ってばかりいる英語教師がいた。文法の授業で、自分が延々と喋るだけの教師なのだが、授業中頻繁に「すみません」と謝るのである。どうも、言い間違えたり、うまく説明出来なかったりしたときに「すみません」と謝っているらしいのだが、しかし、英語が得意でもなく、しっかり予習している訳でもない私には、彼が何を謝っているのかさっぱり分からなかった。その教師はいつも教卓に英和辞典を置き、時々授業を中断して単語の意味を確認した。用のないときも、よく辞書の上に手を置いていた。おそらく、極度の心配性か、ちょっとしたノイローゼの類だったのだろう。かなり歳のいった先生だったが、あの調子で授業をやるのは随分大変だっただろう。当時はその変わり者ぶりを不思議だと思うだけだったが、今は、あの先生が誰に謝っていたのかがなんとなくわかる。先生は自分に謝っていたのだ。彼は、教科書や辞書のように正確になれない自分が許せなかったのだろう。