画と音

『極楽のおじさん(仮題)』という作品を編集している。


画と音を機械的に合わせていく作業だから、厳密にいえば本格的な編集に入るための準備段階といったところ。ビデオ(HDV)で撮影した画と、ICレコーダーで同時に録音した音声を、カット頭のカチンコで合わせていく。編集ソフト上での作業だが、1カット1カット手作業でやるしかないので、かなり面倒くさい。しかし、そう嫌な作業でもない。画に音がシンクロする瞬間は、大げさにいえば、映画のマジックを感じる瞬間だ。音のない画に音がつくと、まったくの別物になる。視覚と聴覚がまったく別の感覚であることに、改めて気づかされる。もっとも、今回はビデオ撮影なので画には始めからカメラマイクの音声がくっついているのだが、この音声がカメラから独立して録音された音声に置き換わる瞬間は、無音のフィルムに音がついたときの感じとほとんど変わらない。組み合わせる音が変わると、画はまったくの別物に変化する。


以前16mmで製作していたときは、この画音合わせはもっと面倒で、だからもっと達成感があった。フィルムとシネテープ(フィルムと同形状の磁気テープ)を編集卓で合わせていくのだが、1秒24コマもあるむやみに長くてかさばる物体を、ズレのないように切ったり貼ったりするワケだから、ちょっとした肉体労働である。この労働を牽引する直接的な喜びが、画と音が組み合わされたときの感動だった。フィルムの場合、画も音も「手で触る」ことができる。それもまた、労働の喜びに寄与する要素だったように思う。


さらに以前、私が初めて自分の作品を制作したのは8mmフィルムだった。8mmというのはいろいろな意味ですごいメディアだが、映画製作のシステムとしては非常に脆弱で、特に同時録音した素材を後で細かく編集するという作り方には向かないフィルムサイズだ。だから私が自主映画製作を始めるきっかけとなった大学のサークルでは、現場では一切音を録らず撮影し、編集後にすべてアフレコして映画を仕上げていた。卒業後私は、同時録音の仕上げには必要不可欠な「サウンドエディター」という機材を名古屋シネマテークから借りて、同時録音+非長回しの8mm映画に挑戦したが、これがかなりつらい作業だった。8mmカメラも録音に使用したテープレコーダーもサウンドエディターも、ランニングスピードが正確ではないので、カット頭で合わせても画と音はすぐにどんどんズレていくのだ。サウンドエディターのチャチなスピード微調整つまみを何度も設定し直し、ズレはじめたら合わせ直し、ときには指でフィルムの流れに抵抗を与えてスピードを調節したりして、何とか完成させた記憶がある。この苦労に関しては、あまり達成感はなかったように思う(笑)。


『極楽のおじさん(仮題)』は今夏中には完成させる予定。またブログに進行状況を書いていきたいと思っています。