Hさんのこと

先々週Hさんが亡くなった。

3年ほどお会いしてなくて、闘病されていたことも知らなかった。

信じられなかった。

入院される前なら、お会いするチャンスはいくらでもあったのにと悔やんでいる。

 

Hさんには若い頃、仕事でとてもお世話になった。

学生時代以降に出会った、数少ない先輩的存在のひとりだった。

仕事柄交友関係が広かったHさんからみれば、私との絡みはごく小さなものに過ぎなかっただろう。

でも、Hさんとの会話やその時の映像は、ずいぶん昔のことでも、不思議なくらいはっきりと思い出せる。

 

93年頃のことだと思う。

私はHさんの映画館で働きはじめたばかりだった。

1月2日のこと、お昼どきにHさんが突然「鍋をやるよ」といいだした。

私はちょっと驚いたが、Hさんは毎年の慣わしだという。

映画がはじまってロビーにお客さんがいなくなると、私たちはふたりで簡素な鍋をつついた。

たまたま客として来ていた元スタッフが、帰りしな「ニオイが気になるから、もうその習慣はやめたほうがいい」とHさんに声をかけた。

そのときのHさんの様子だけが、一連の記憶の中でぼんやりしている。

今の私の主観で補っていえば、Hさんは少し寂しそうな様子だった。

振り返ると、その映画館も、世の中も、変化しつつある時期だった。

 

Hさん、いろいろと本当にありがとうございました。

どうか、ゆっくりと休んでください。

さようなら。

 

I will see you again, but not yet.