死骸を隠す

祖母と歩いていると、道に干涸びたヘビの死骸があった。祖母はそれをひょいとつまんで、道ばたの草むらに投げ込んだ。死骸を隠してやると、いいことがあるのだという。その後祖母にいいことがあったかどうかは知らないが、死骸を草むらに隠す祖母の姿を二三度見たように記憶している。いつもヘビの死骸だったかどうか、他の生き物の死骸もあったかどうかは、よく覚えていない。

15年ほど前、車に轢かれたネコの死骸を見た。歩道からは少し距離のある、広い車道の真ん中だった。生きているはずのない姿形になっていたが、頭が僅かに動いたようにも見えたので、轢かれた直後なのかもしれなかった。イヤなものを見てしまったと思いながら帰宅したが、どうにも気になって仕方がなかった。保健所に電話すると、時間外なので明日改めて電話してくれという。夜の八時、いやもっと遅い時間だったかもしれない。私は決心して、古新聞の束を持って現場に戻り、車の流れが切れるのを待って車道に出た。まだぐにゃぐにゃしていて重い死骸を、なんとか急いで新聞に包み、車道と歩道を隔てる植え込みの中に隠した。

去年、連れ合いと神社の近くを歩いていると、大きなアオダイショウの死骸が道に転がっていた。2mはあっただろう。干涸びて木の枝のようになっていた。かなり人が通る路地だが、少なくとも数日は放置されていたにちがいない。私は立ち止まり、連れ合いが不審に思わないように祖母の「迷信」を説明してから、死骸の尻尾をつまんで持ち上げた。路傍に土手があり、その上が草むらになっていた。私は死骸を二三度振り回して勢いを付けてから、その草むらに向かって放り投げた。

数日前、近所の歩道にネコが横たわっていた。場所的にネコが眠るような所ではなかった。どうやら死んでいるようだった。急いでいたのでそのまま通り過ぎた。翌日同じ場所を通ると、死骸は消えていた。

つい先ほど、また同じ場所を通った。数日前ネコの死骸があった場所から2メートルほど離れた所に、つぶれた毛皮のようなものが落ちていた。数日前のネコとガラも似ているような気がした。しかしそれは、ネコの死骸というにはあまりに漫画的というか、平たくなりすぎていた。形は定かではなかったが、敷物にされたトラの毛皮のような感じだった。車に轢かれ続ければそうなることも考えられるが、死骸があったのはのは歩道だった。もっと近づいて確認しようかとも思ったが、もしその毛皮状のものが死骸だったら、私はそれを隠さなければならない。そう思うと、確認するために近づくのが億劫になり、そのまま行き過ぎた。

あれは死骸だったのだろうか。まだ気になって仕方がない。