消失点

遠近法を使って絵を描くときは、消失点という点を設定してそこから放射状に線を引き、線と線の幅に従って近いものは大きく、遠いものは小さく描いていく。言い方を換えれば、消失点とは、その絵が表現する空間で最も遠い場所である。


その絵の世界では、そこに向かって、すべてが収斂していく。消失点とは、遠近法で描かれた絵の世界をつり支える重心である。遠近法で描かれた世界が現実の似姿であるのに対し、消失点は概念上の存在だから、形も大きさも持たない。


映画や小説にも消失点が必要である。テーマやコンセプトとは違う。それらは「意味」に過ぎない。その世界をつり支える絶対的な重心であると同時に、抽象的にしか存在しない点。それが必要である。消失点を持った映画や小説はソリッドで美しく、リアルだ。


そしてまた、人生にも、ときには消失点が必要である。例えば親鸞における阿弥陀仏がそれである。