人生は崩壊の過程である、という言葉のカッコよさとは程遠い崩壊

手のひらがシクシク痛むので、その痛みのもとを探すと、1ミリにも満たない極小の黒い点がある。
眼球が接するくらいに近づくと、それは髪の毛だった。
髪の毛の断片が、ささくれのように皮膚に突き刺さっている。


風呂場で散髪して、そのまま湯舟に浸かっている時のことだ。
電気バリカンで3ミリのボウズにするから、粉のような髪の毛の断片がたくさん発生する。
そのうちのひとつが、たまたま角度とかタイミングとかに恵まれて、オレの体に戻ってきたワケだ。


もう一方の手の親指と中指の爪をとげ抜きのように使って、なんとか毛を皮膚から抜き取った。
風呂から上がって、別の場所にも毛が刺さっていることに気づいた。
今度はもっと深く突き刺さっていたので、爪切りの刃の端っこを使ってソロソロと抜きとった。


自分でボウズにするようになって15年以上になるが、昔はこんなことはなかった。
毛が皮膚に刺さるようになったのは、ここ1年くらいのことだ。


皮膚が弱くなったからだろうか。
あるいは、髪の毛の質が変化して、切断面が鋭くなったとか。


いずれにしろ、これが加齢による身体の変化のせいだとしたら、
年をとるというのは、なんというか、若いころ想像していたのより随分と間が抜けている。