パブリック・エネミーズ

(少しネタバレあり)

「ソフト帽映画」は苦手なのですが、「コラテラル」のマイケル・マン監督ということで、DVDで鑑賞しました。

「ソフト帽映画」というのは、登場人物が「ソフト帽」をかぶっている映画、という意味で、もちろん私の勝手でいい加減な分類です。無理矢理定義するならば、アメリカ映画の中で、1950年代くらいまでを舞台にした西部劇ではない時代劇で、ギャングや警察官や探偵が主人公である映画、ということになるでしょうか。例えば「L.A.コンフィデンシャル」や「アンタッチャブル」や「チャイナタウン」などの映画です。

苦手である理由のひとつは、男性の衣裳が皆「三つ揃え」に「ソフト帽」で見分けづらい、ということです。都合が悪いことに、この手の映画の登場人物は、ほとんどが男性です。そもそも私は、外国人俳優の顔を見分けたり覚えたりするのが苦手なのです。映画ファンとしては致命的な欠陥かもしれませんが…。

もうひとつの理由は、ストーリーや背景が複雑になりがちで、ついていくのが大変だということです。この手の映画のストーリーは「謎解き」や「捜索」の連続で進行していきますから、事件が次々に起こり、たくさん人物が出てきます。ただでさえ理解するのが大変なのに、出てくる人が皆「三つ揃え」に「ソフト帽」では、もはや私には手に負えません。

パブリック・エネミーズ」も、冒頭から1時間くらいは、正直見るのが苦痛でした。ところが、ジョニー・デップ演じる主人公のジョン・デリンジャーが刑務所に収監され、すぐに脱獄する場面あたりから、映画の雰囲気がかなり変わってきます。何となく映画のテンポが緩やかになり、メロドラマ的な香りが漂い、デリンジャーが妙に人間臭くなるのです。その変化は、デリンジャーの衣裳の変化と無関係ではない気がします。

出所後のデリンジャーは、綿シャツに麻のズボン、頭には「カンカン帽(パナマ帽?)」という格好で、馴染みの娼婦の家に身を隠します。彼を追う警察の面々は相変わらず「三つ揃え」に「ソフト帽」のままです。ラストシーン、「カンカン帽(パナマ帽?)」のデリンジャーが「ソフト帽」の警察に射殺されるシーンには、妙な官能性を感じました。