若返ったおじいさん

近所に一人暮らしのおじいさんが住んでいた。家のつくりや彼の風貌からして、大工か、あるいは木工の職人さんといったところだろう。ただ、もうほとんど仕事はしていない様子だった。ときどき庭先にぼんやり座って、錆びた一斗缶の中で木屑を燃やしていた。
ついさっき、その家の前を通ったら、おじいさんが若返っていてびっくりした。
短く刈り込んだ髪は黒々とし、小太りの体には張りがあった。古いタンスにホースで水をかけ、ゴシゴシと洗っていた。私の足音に気づいて、ギロリとした目でこちらを見た。その顔は確かに、あのおじいさんの、20年か30年は若いときのものだった。
すぐに私は、おじいさんの姿を見かけなくなってから、もう1年以上経っていることに気づいた。いや、ひょっとしたら2年か3年経っているかもしれない。ああ、嫌だ嫌だ。私自身が歳をとったせいで、2,3年が2,3日のように感じられる。
おそらく、さっき見た「若いおじいさん」は、おじいさんの息子さんだ。ずっと離れて暮らしていたのだ。
人は若返らない。時計の針を逆に回すことはできない。
でも、そばを通り過ぎる私から見れば、おじいさんは若返った。
ああ、子供を持つということはこういうことなのかもしれない、私はそう思って、子供を持たない自分のことを、少しだけ寂しく思った。